固定資本減耗の国際比較:製造業

Tetiana Lazunova/iStock

1. 製造業の固定資本減耗

前回は日本の経済活動別固定資本減耗についてご紹介しました。

日本は、投資が比較的多く、その維持費とも言える固定資本減耗が相対的に多い事が特徴です。

もう少し固定資本減耗について詳しく知る必要があると思いますので、今回からはOECDのデータベースから、経済活動別の固定資本減耗の国際比較をしていきたいと思います。

固定資本減耗は蓄積した固定資産残高によって決まりますので、アップダウンの激しい総固定資本形成よりも比較しやすい指標と思います。

まずは、OECDの統計データより、経済活動別の固定資本減耗についておさらいしてみましょう。

図1 経済活動別 労働者1人あたり固定資本減耗 日本
OECD Data Explorerより

図1が日本の労働者1人あたり固定資本減耗の推移です。

今回着目する製造業(青)は、電気・ガス・口調供給業、公務、鉱業に次いで高い水準となっています。

やはり、機械・設備などの固定資産への投資を行って付加価値を稼ぐ産業ですので、相対的に固定資産の維持費用が多い事になります。

この推移や水準を頭に入れつつ、国際比較をしてみましょう。

2. 労働者1人あたりの推移

まずは、製造業について労働者1人あたりの水準(名目、為替レート換算値)の推移を見てみましょう。

図2 労働者1人あたり 固定資本減耗 製造業
OECD Data explorerより

図2が主要先進国の製造業における、労働者1人あたり固定資本減耗(名目為替レート換算値)の推移です。

固定資本減耗は基本的に固定資産残高に連動しますので、そのまま労働者1人あたりの固定資産残高(いわゆる資本装備率)に相当する指標としても見ていただけるのではないでしょうか。

G7のうちカナダのデータが無いため代わりにスペインと韓国を入れています。

日本は1990年代に非常に高い水準に達した後、アップダウンしながらも相対的に高い水準が継続しています。

近年ではアメリカ、韓国にキャッチアップされていますが、他の主要先進国よりも高い水準のようです。

ドイツは製造業が盛んな国ですが、水準としてはそこまで高くないようです。

2. 労働者1人あたりの国際比較

最新の2022年の水準について国際比較してみましょう。

図3 労働者1人あたり固定資本減耗 製造業 2022年
OECD Data Explorerより

図3がOECD各国の2022年の国際比較です。

日本は27,086ドルで、OECD30か国中8番目の水準となります。

日本は先進国の中でも製造業における固定資産の蓄積が多いという事になります。

3. 対国内総生産比の推移

続いて、各経済活動における国内総生産(Value added, gross)に対する比率でも比較してみましょう。

図4 固定資本減耗 対国内総生産比 製造業
OECD Data Explorerより

図4が製造業における固定資本減耗 対国内総生産比の推移です。

他国は概ね15~25%ですが、日本は25%以上と他の主要先進国と比べてかなり高い水準が継続してきたことになります。

近年では韓国が上昇傾向となり、日本と相応する水準となっています。

4. 対国内総生産比の国際比較

最後に、対国内総生産比の国際比較をしてみましょう。

図5 固定資本減耗 対国内総生産比 製造業 2022年
OECD Data Explorerより

図5が2022年の固定資本減耗 対国内総生産比の国際比較です。

日本は34.4%で、OECD30か国中1位となっています。

日本の製造業では固定資産への投資が非常に大きく、付加価値に対して固定資産の維持費用が嵩んでいるという見方もできます。

言い方を変えれば、投資が多い割に付加価値を稼げていない産業という事も言えるかもしれません。

5. 製造業の固定資本減耗の特徴

今回は経済活動のうち製造業の固定資本減耗について着目してみました。

製造業は機械・設備や施設などの固定資産への投資が必要不可欠な産業です。

日本の製造業は特に固定資産への投資が相対的に多く、投資に対して付加価値に結び付いていないという見方もできそうです。

本来は機械・設備などへ投資をすることで、生産性や生産能力が向上し、付加価値が増価する循環になるはずですが、日本はそこまで製造業の付加価値が増えていません。

付加価値が増えない限り、固定資産への投資は経営上の負担になるばかりか、将来的な柔軟性をも縛りかねません。

既に投資した機械・設備は無かった事にできませんので、その負担を負いながらも、投資を回収できるような事業運営が必要となります。

効率的な投資は重要ですが、固定資産にばかり頼らない付加価値の稼ぎ方も模索していく必要があるかもしれませんね。

皆さんはどのように考えますか?


編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年4月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。