原油価格の行方:OPEC+が原油の増産を図る深謀遠慮

このところ原油価格が落ち着いていることもあり、ガソリン価格も下がり、日本の方は安堵している方も多いかもしれません。

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原油は政治問題に絡みやすく、経済のバロメーターでもあることからその価格の行方は時として必ずしも需給関係のみならず、政治的な判断も内包されます。また原油市場の参加者は少なく、また特殊であるため、コロナ期のようにマイナス価格が生じることもあります。原油市場参加者は実際に原油を在庫として扱うヘッジャー、石油を実際には持たない純投資目的のスペキュレーター、そして先物とスポットの価格差を利用するアービトレージャーに分かれます。コロナ期に価格がマイナスになったのは先物の期日到来が近づいた際に石油を実際に持たないスペキュレーターが期日の先送りができず、かといって現物を買い取っても在庫を置くところがある訳でもなく、やむを得ず、マイナス価格、つまりお金を払ってヘッジャーに買い取ってもらうという現象が生じたものです。極めて異例なケースだと思いますが、商品取引の怖さとも言えます。

さて、価格が落ち着ているのはOPEC+が原油の増産を図っているからで今週末に7月分の産出量を決める会合が開かれ事前予想では産出量を増やす見込みです。リーダーのサウジアラビアがこのところ、OPEC+メンバー国による産出量の調整に苦慮しており、「約束破り」の国が複数あります。そのため、彼らに仕置きをするために価格を下げてサウジの威信を見せつけることとされます。私はさらに、一般の見解とは逆にそれ以外にロシアの意向もあるだろうとみています。ロシアは戦費捻出が喫緊の課題ですが、ロシア原油の産油コストは40ドル台とされ、今の価格なら十分に利益は出ます。問題はロシアにしろサウジにしろ、原油利益が国家財政を支える大きな基盤となっているため、利益よりもキャッシュフロー的意味合いを重視しているように見えるのです。

もう一つの邪推がアメリカシェール潰しではないかとみています。シェールオイルが生まれてアメリカは世界最大の産油国に君臨しています。(2位がサウジ、3位がロシア、4位がカナダ)ただアメリカンシェールオイルの行方は疑問符がついています。一か所のシェールのリグ(掘削機)寿命は20年程度ですが、実際にそれだけの期間、稼働し続けるのはなかなか難しく、技術革新との競争になっています。ただ、現在の原油価格相場だと新規のアメリカンシェールオイルでは利益が出ないとされます。更に産出したオイルを西海岸なり東海岸まで持っていくコストがかかります。

実際、アメリカのリグ数を見ると2019年代は1000を超えていたもののコロナで激減し300台にまで落ち込みます。その後、復活するも700台後半を上限に2024年初頭からずっと減少の一途を辿り、5月23日のリグカウントはついに600ちょうどまで下げてしまったのです。トランプ氏が掘れ、掘れというのと真逆の状態にあるのが見て取れます。

実際、アメリカの投資会社のGoehring & Rosencwajg のレポートはシェールオイル枯渇説を主張しています。ただし、アメリカのシェールオイルが不調でもシェールガスは当面安定的に増えるとみられています。

トランプ氏がカナダいじめをしている中でカナダの原油にも関税を課しているのですが、これはトランプ氏はカナダオイルの特性を十分理解していないかもしれません。アメリカンシェールは軽質油、カナダのオイルサンドは重質油なのです。この違いは大きいのです。軽質油は揮発性が高いわけでLPガスやガソリン向きである一方、重質油は価格が安い一方、用途が機械、発電所とか船舶向けになります。つまり使う目的が違うわけでアメリカは原油がとれるからカナダの原油はいらないという話は短絡的すぎるのです。

事実、私は1-2か月前、カナダの原油会社の株式に結構な金額で投資しました。理由は需要は必然だからです。

アメリカンシェールは投資家が継続的にお金を投資し続けることで機能しますが、統計を見てもそのピークははるか前に終わっており、世界に影響力を与え続けることはないとみています。とすればサウジが再び価格統制力を持つ可能性はあるのでしょう。もちろん、世界が脱原油となれば別ですが、世界の全ての内燃機関のエンジン、自動車から航空機、産業機械、発電所、タンカー/船舶さらには道路のアスファルトなど全て脱原油になることはないでしょう。また原油精製の過程では好む好まざるにかかわらず5種類の精製品ができてしまうのです。(ガス、ガソリン、灯油、軽油、残油⦅重油⦆ また、原油の質、つまり重質、軽質によりその比率が変わりWTIとブレンドは軽質油が多いため価格が高いとされます。)

よって原油の世界需要は景気に左右されますが、一定の下支えはあります。コロナの時のような相場は現実の需要と乖離したものであり、冷静に考えれば無意味な相場だったとも言えます。その中心値は概ね70㌦程度というのが今の世界経済を考えた心地よい水準というのが私の解釈であり、それを下回る今は値ごろ感があるという見方もできるわけです。

では今日はこのぐらいで。

トランプ大統領とサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子 ホワイトハウスXより


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年5月27日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。