ポーランドで6月1日、大統領選挙の決選投票が実施され、愛国主義的右派の野党「法と正義」(PiS)の候補者カロル・ナヴロツキ氏(42)がワルシャワ市長で親欧州派の与党リベラル派「市民プラットフォーム」(PO)が支持するラファウ・チャスコフスキ氏(53)を僅差で破り、当選した。

ナヴロツキ氏とトランプ大統領 同氏インスタグラムより
中央選管当局によると、ナヴロツキ氏は得票率50.89%、チャスコフスキ氏は49.11%で、両者の差は1.78%という歴史的な僅差だった。大統領の任期は5年。外交・国防で一定の権限を有し、議会で採決した法律に拒否権を行使できる。
大統領選の行方は欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)加盟国のポーランドにとって重要な選挙と受け取られてきた。トゥスク政府は2023年12月、政権発足後、PiSの前政権下で導入された司法制度の改革、中絶禁止令の撤廃、メディアへの規制緩和などを行おうとしたが、PiSのドゥダ現大統領は拒否権を行使して阻止してきた。
ナヴロツキ氏が当選したことで、大統領府をPiS、政府が与党POが主導するというねじれ関係が続き、政府と大統領府が対立することで政治的膠着状態が生まれ、最終的には早期の議会選挙につながる可能性が出てくる。

ナヴロツキ氏インスタグラムより
なお、新大統領はウクライナへの継続的な支援では変わらないが、選挙期間にトランプ米大統領を訪問するなど、熱狂的なトランプ支持者だ。ナヴロツキ氏はメディアの質問に答え、「我々は、旧ソ連のロシアを倒そうとするウクライナの努力を支持する。ロシアの新帝国主義的脅威に対抗することは、ポーランドの戦略的利益にかなう」と述べる一方、その外交・国防の核は”ポーランド・ファースト”にあることを明らかにしている。
【短信】ナワリヌイ夫人、TV放送「ロシアの未来」を開設
ロシアのプーチン大統領の最強の反体制派活動家と見られてきたアレクセイ・ナワリヌイ氏の夫人、ユリア・ナワリナヤさんは夫の49歳目の誕生日の6月4日にロシアの「報道の自由」を訴えるテレビチャンネルを開設する。
同チャンネルは「ロシアの未来」と呼ばれ、非政府組織「国境なき記者団(RSF)」と共同でパリから衛星システムを通じて放送される。
ナワリヌイ氏は昨年2月16日、収監先の刑務所で死去した。47歳だった。同氏は昨年末、新たに禁錮19年を言い渡され、過酷な極北の刑務所に移され、厳しい環境の中、睡眠も十分与えられず、食事、医療品も不十分な中、独房生活を強いられてきた。死亡診断書には「自然死」と記載されていた。
ナワリヌイ氏は2020年8月、シベリア西部のトムスクを訪問し、そこで支持者たちにモスクワの政情や地方選挙の戦い方などについて会談。そして同月20日、モスクワに帰る途上、機内で突然気分が悪化し意識不明となった。飛行機はオムスクに緊急着陸後、同氏は地元の病院に運ばれた。症状からは毒を盛られた疑いがあった。交渉の末、同年8月22日、ベルリンのシャリティ大学病院に運ばれ、そこで治療を受けた。ベルリンのシャリティ病院はナワリヌイ氏の体内からノビチョク(ロシアが開発した神経剤の一種)を検出し、何者かが同氏を毒殺しようとしていたことを裏付けた。
ナワリヌイ氏は2021年1月17日、治療が終わると、ドイツのベルリンからモスクワ郊外の空港に帰国した。その直後、逮捕された。同氏の死後、ユリア・ナワリナヤさんが夫の遺志を継ぎ、海外でロシア反体制派の結束のために努力している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年6月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。